ボルトやナットを締める、緩めるのに欠かせない工具レンチ。その種類は豊富で様々なタイプがあるが、どれもボルトなどから外れにくく作業の安定性が高いのが特徴そんなレンチの種類の違いやそれぞれの特徴、さらに正しい使い方を紹介する。
1.レンチとは
2.各部名称
3.レンチの種類
4.レンチの使い方
まとめ
1.レンチとスパナの違い
ボルトやナットを回転させて締めつけたりゆるめたりするために使用する工具がレンチ。似たようなものにスパナがある。英語ではレンチもwrench(レンチ)もspanner(スパナ)も実はボルトやナットを回して締め付けを行う工具のことを指すのだが、違いはwrench(レンチ)がアメリカ英語で、spanner(スパナ)がイギリス英語ということだけ。そのため英語ではこの2つ同じもののことを指す。 しかし、日本では一般的にモンキーレンチなどの一部の例外を除き一般的に先端が開放型のものをスパナ、それ以外の先端がリング状になったものをレンチと呼んでいる。どちらも使用方法などもほぼ変わらないが、スパナがボルトやナットを口部の先端2点でとらえるのに対して、めがねレンチなどのレンチでは6点でとらえることができるというのが大きな違いだ。そのため、外れにくく、さらに強い力をかけて締めつけたりゆるめることが可能なのだ。ただし作業性という意味では真横からでもボルトやナットに差し込むことができるスパナのほうが優れている。そのため、レンチとスパナは、同じサイズのものをセットで揃えておくのが基本だ。
2.各部名称
ソケットレンチ
①ハンドル/手で握る部分。また本体そのものもハンドルと呼ぶ。
②ヘッド/ソケットを取り付ける部分。固定式の物のほかこのように首を振ることのできるものもある。
③回転方向切り替えレバー/切り替えることで締める、緩める、それぞれ片方向だけに力が伝わる。
④リリースボタン/ソケットの脱着するときに押すボタン。 ⑤ドライブ角/ソケットの差込角と連結する部分。規格が定められておりいくつかのサイズがある。
⑥12角ソケット/角が12個あるソケット。差し込む向きの調節が簡単で6角ボルトやナットにスムーズに差し込むことが可能。
⑦差込角9.5sq.(9.5㎜)/一辺の長さが9.5㎜の差込角を持つソケット。
⑧差込角12.7sq.(12.7㎜)/一辺の長さが12.7㎜の差込角を持つソケット。差込角が大きいほど強い力で締め付けられる。
モンキーレンチ
①グリップ/手で握る部分。
②ウォーム/回転させることで下あごの位置が調整可能。
③上あご/ボルトやナットをとらえる強度の高い固定されたアゴ。
④下あご/ウォームによって開閉するアゴ。使用の際はなるべくこちら側に強い力がかからないようする。
めがねレンチ
①グリップ/手で握る部分。
②口部(14㎜)/二面幅14㎜のボルトやナットに対応した口部。
③口部(12㎜)/二面幅12㎜のボルトやナットに対応した口部。
3.レンチの種類
スパナと違いレンチには様々な形、種類がある。代表的なものがめがねレンチやモンキーレンチだ。他にも、コンビネーションレンチやボックスレンチ、ソケットレンチに六角棒レンチなど様々なタイプのものがある。代表的なものをいくつかご紹介しよう。
めがねレンチ
金属製のグリップの両端に、リング状の口部(ボルトをはめる部分)があるレンチがめがねレンチだ。名前の由来はその見た目が、めがねのように見えることから。シンプルな工具で、口部の口径や手で握るグリップの部分の長さ、さらに口部にオフセット角(口部と柄を結ぶ部分の角度)があるものなど様々な種類がある。
のオフセットがあれば、ボルトやナットの近くに、飛び出した部品など障害物があっても、レンチを差込み回転させることが可能だ。オフセットの角度はJISによって15°、45°、60°の3種類があり、さらにオフセットのないストレートタイプのめがねレンチや、柄の部分が丸く弧を描いたハーフムーンレンチなどもある。 メガネレンチの両端の口部の組み合わせは、8×10(8mmと10㎜)など異なるサイズの組み合わせになっており、このサイズは主にミリサイズとなっている。しかし古いアメリカ製のクルマやバイクなどに用いられているボルトに対応した、3/8×7/16(3/8インチと7/16インチ)インチサイズのめがねレンチなどもある。
コンビネーションレンチ
めがねレンチに似ているがが、片側がレンチ、もう片側がスパナのコンビになっているのがコンビネーションレンチ。スパナで仮止め、レンチで本締めなどスムーズな作業ができるよう両端の口部は、多くの場合同じサイズになっている。
モンキーレンチ
口部の手前側に「ウォーム」と呼ばれる調節部が付いているのがモンキーレンチだ。このウォームを指でクルクルと回すことで口部を広げたり、狭くすることができる。口部には上あごと下あごがあり、上あごは動かず、下あごが動いて口径を調整する。様々なサイズに対応できるが口部の強度があまり高くないため大きなトルクをかけるとボルトなどをなめやすいので使用には注意が必要。
ソケットレンチ
ボルトやナットにはめ込むためのソケットと、そのソケットを取り付けるハンドルで構成されたレンチがソケットレンチ。ハンドル部分には、ラチェット機構が組み込まれており、レバー操作などで、動作方向を一方に制限(目的と反対方向に回転させると空転する)し、レバーの往復運動だけでスピーディに作業を進めることが可能だ。
ソケットには、六角、十二角、ディープソケット、ヘキサゴンソケットなどの種類があり、口径のバリエーションも豊富。ハンドル部分の長さにもバリエーションがあり、使用するスペースやボルトに伝える力の大きさなどに合わせて選ぶことが可能だ。
ソケットとハンドルつながる四角い突起がドライブ角、ソケット側の四角い穴を差込角といい、このサイズはJISやISO規格で定められていり。そのため、メーカーやブランドが異なっていても、同じ規格のものであれば問題なく使用することが可能だ。 差込角(ドライブ角)には、6.35㎜(1/4インチ)、9.5㎜(3/8インチ)、12.7㎜(1/2インチ)、19mm(3/4インチ)、25.4㎜(1インチ)、38.1㎜(1 1/2インチ)などがあるが一般的なのは9.5㎜と12.7㎜。この差し込み角に延長用のエクステンションバーや、回転の角度を変換できるユニバーサルジョイントなどのアダプターを取り付けることもできる。
ボックスレンチ
ソケットレンチのソケットとハンドルが一体となったレンチがボックスレンチ。ソケットレンチと違い一体構造になっているので強度が高く、ガタつく心配もないためクルマのホイール用ナットなど、大きなトルクを必要とする作業などに適している。L型や、十字型(クロスレンチ)、Y型などもある。代表的なボックスレンチがT形レンチで、ハンドル部分を両手で握ることができ力を入れやすいのが特徴だ。
ラチェットレンチ
レンチの口部にラチェット機能を組み込んだレンチがラチェットレンチだ。ラチェット機構が組み込まれているため一方向にだけ力を伝えることができスピーディな作業が可能だ。回転方向はレバーで切り替えられるものと、裏返すことで回転方向を変更するシンプルなタイプがある。口部は差し替えることができないのでボルトやナットのサイズにあったものをそろえる必要がある。
六角棒レンチ
六角穴付きのボルトに使用するのが六角坊レンチ。ヘキサゴンレンチや、ヘックスなどと呼ばれることもある。ボルトを外からくわえこむのではなく、ボルトに開けられた六角形の穴に工具を差し込むため工具とボルトの接触面積が大きく強い力を加えてもボルトが壊れにくくボルトやネジの溝をなめてダメにしてしまう危険性がほとんどない。L型の物のほかドライバータイプやT型、ソケットレンチ用のソケットタイプなどもある。 L型タイプの使い方は素早く回したいときは長いほうの先端を差し込みスピーディに回し、逆に力をかけ締めこみたいまたは固く締まったネジを緩める場合は、短いほうの先端を差し込み、長いほうを手で握ってテコの原理で大きな力を伝え回す。
ヘックスローブレンチ
ネジの頭が星型のヘックスローブねじに使用する工具がヘックスローブレンチ。ネジと工具のかみ合いが強く、大きな力を効率よく伝えることが可能だ。一般家庭で使われている工具では回せないため、分解防止やいたずら防止を目的として使用される場合もある。そういった目的にヘックスローブねじは中央に突起のある「いじり止めヘックスローブ」になっている場合が多い。
ヘックスローブねじには、星型の穴のあるT型と星型がネジの頭に飛び出したE型があり使用する際はそれぞれにマッチしたヘックスローブレンチが必要だ。 ヘックスローブのT型にはT6、T7、T10などのサイズがあり、同じくE型は、E4、E5、E7といったサイズがある。サイズがあっていないとネジを痛めるので注意が必要だ。
4.ソケットレンチの使い方
レンチの中でも汎用性が高く使い勝手の良いのがソケットレンチだ。使い方に多少のコツはいるが難しくはない。まずはボルトやナットの二面幅(サイズ)にあった、正しいサイズのソケットを用意し、そのソケットに合ったハンドルを組み合わせる。ソケットレンチには作業中ソケットが外れないようにユニオン機構(ロック機能)が搭載されているので取り付ける際はヘッド部分にあるリリースボタンを押しながら結合しよう。外す際も同様にリリースボタンを押してから外す。
次に操作方向を確認する。締める方向、もしくは緩める方向に正しくレバーを切り替えてから、ボルトやナットにソケットをくわえさせハンドルを操作しよう。切り替えレバーを中途半端な位置にしてしまうとラチェット機構の破損の原因になるので注意しよう。
まとめ
構造がシンプルなうえ頑丈で、ボルトやナットなどから外れにくく、大きな力をくわえることのできるレンチは使い方も簡単で非常に便利な工具だ。自動車やバイクの整備、家具や家電の組み立てには欠かせないものなので、必要なサイズをいくつかそろえておくことをおすすめする。しかし使ううえで注意することもある。まずは正しいサイズを必ず使用すること。合わない工具を使えば思わぬ事故につながりかねない。ボルトやナットのサイズにあったものを使用するようにしよう。
また、固く締まったボルトが緩まないからと、ハンマーでレンチのハンドルを叩いたり、ハンドルにパイプなどを継いでテコの力で無理に力をかけるようなことも絶対にするべきではない。機械そのものを壊してしまったりボルトやナット、工具そのものの破損につながることもあるのでくれぐれも注意しよう。
■(著)山田芳照 :レンチ、DIY技術監修、DIY講師